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福岡高等裁判所 平成元年(ツ)26号 判決

(抄録)

「上告代理人らの上告理由について

一 論旨は、要するに、割賦販売法二条三項二号所定のいわゆる個品割賦購入あっせんに係る取引(以下『あっせん取引』という。)において、指定商品の真実の購入者に自己の名義を貸与した仮装の購入者は、売買代金の立替払を委託した割賦購入あっせん業者(以下『あっせん業者』という。)からの支払請求に対し、同法三〇条の四第一項の規定に基づき、割賦購入あっせん関係販売業者(以下『販売業者』という。)との間の売買契約が通謀虚偽表示(名義貸与)により無効であることをもって対抗することができるとして、あっせん業者であるXからYに対してなされた、立替払契約に基づく本訴請求を棄却した原判決には、右規定の解釈適用を誤った違法がある、というのである。

二 よって検討するのに、原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。

1 KとYとは、同じ医院に勤務する同僚であったが、昭和六〇年四月一七日、販売業者であるAから、その訪問販売員であるBの勧誘により、Kが下着二セットを代金一三万円で、Yが下着一セットを代金六万五〇〇〇円で、それぞれ買い受けることとなり、当時Aがいわゆる加盟店契約を締結していたXに対し、右代金の支払について立替払契約の申込みをした。Xは、Yの申込みは応諾したが、Kについては、信用調査の結果いわゆる事故者であるとしてこれを拒否した。

2 そこで、BからKに対し、同女の購入分についてもYの名義を使ってXの信用供与を得る方策を教示したところ、これを受けたKは、『自分の名前ではクレジットが組めない。自分がちゃんと支払うから。』と言ってYに名義の貸与を頼み、さらに、Bが『Kの支払が遅れたときは、自分が責任をもってKに支払をさせるから。』と口添えをした結果、Yは、Kへの名義貸与を承諾することとなった。

3 そこで、Kの購入分も、すべてY名義で処理されることになり、Aを通じて、YからXに対しK購入分の下着代金一三万円の立替払を委託する契約申込書が作成され、Xに送付された。同年五月一〇日、Yは、Xの担当事務員による、K購入分についての契約意思確認の電話照会に対し、Bの指示に基づいて、売買及び立替払契約申込みの事実を認める回答をした。

4 かくして、同年五月一九日、XとYとの間で、原判決請求原因2記載の本件立替払契約が締結され、Xは同3記載の支払を了した。

三 原審は、右事実関係に基づき、次のとおり判断した。

1 本件立替払契約の申込みをするについてYにその表示行為に相応する内心の効果意思がなかったとしても、そのことだけでは、契約の効力に影響を及ぼさない。また、本件立替払契約は、本件売買契約と経済的には密接な関係を有するけれども、法的には別個独立の契約であるから、YとAとの間に売買が存在しなかったとしても、契約の成立に影響はない。

2 本件立替払契約を締結するに当たり、Yにおいて、右契約に基づくXに対する債務は、すべてKが負担すべきものであり、Yが支払を求められることはないと信じていたとしても、それは、右契約における法律行為の要素の錯誤に当たらない。

3(一) 本件売買契約は、真実の買主であるKにXの信用供与を得させるための方便として、YとAとが仮装したものであって、通謀虚偽表示により無効である。

(二) ところで、あっせん取引において、購入者は、割賦販売法三〇条の四第一項の規定により、信義則に反しない限り、販売業者に対して生じている事由をもってあっせん業者からの支払請求に対抗しうるところ、本件においては、次のとおり、Aが詐欺的言動によってYに名義貸与を承諾させたなどの諸事情があるので、対抗すべき事由が通謀虚偽表示による無効であっても、Yがこれを抗弁として主張することは信義則に反するものとはいえない。

ア Yは、同年三月に高校を卒業したばかりの満一八歳の女子であり、以前にあっせん取引の経験はなく、そのようなYに対し、Bは、前記のとおり、Xに対する支払についてはKが全責任を持つと言うだけで、Kが支払わないときはYが支払請求を受けることになる旨の説明を一切しなかった。また、Y名義の前記契約申込書の作成手続は、すべてAが行い、Yは、署名はもとより捺印もしていない。

イ XがKに信用を供与しなかったのは、Kがあっせん取引においてかつて支払を遅滞したことがあったからであり、したがって、本件においてもそのおそれがあったにもかかわらず、Aは、そのことを知りながら、既にKに対して納品済みの下着代金の回収を図るため、Yに積極的に働きかけて名義貸与を承諾させた。しかも、同社においては、他にも他人名義の使用を勧めて立替払契約を成立させ、販売代金の回収を図っている事例がかなりみられる。

ウ Xの取扱によると、立替払契約の申込人が未成年者で契約申込書に保護者名の記入がある場合には、通常連帯保証人でもあるその保護者に対し、保証意思の確認の電話をするのが一般であるが、本件の場合には、Xは、電話照会はYのみに行い保護者の確認はとらなくてもよい旨のAからの連絡に従い、そのこと自体から本件売買契約に問題があることが推知されたにもかかわらず、本件立替払契約申込書の連帯保証人欄記載のYの母親に対しては、何ら保証意思確認の方法をとらなかった。

4 よって、XのYに対する、本件立替払契約に基づく本訴請求は、失当である。

四 しかしながら、以上の原審の判断のうち、前記三の1、2及び三の3(一)の判断は是認することができるが、Yが本件売買契約の通謀虚偽表示による無効をもってXの本訴請求に対抗することができるとした部分(三の3(二))は、是認することができない。その理由は次のとおりである。

1 割賦販売法三〇条の四第一項は、あっせん取引における購入者のあっせん業者に対するいわゆる抗弁権接続の法理について、購入者は、あっせん業者からの支払請求に対し、『販売業者に対して生じている事由をもって…対抗することができる』と規定し、法文上対抗しうる場合を特に限定しない取扱をしている。しかし、右規定は、あっせん取引に関し販売業者に対して売買契約上の抗弁を有する購入者の利益をあっせん業者の利益に優先して保護するために特に設けられた規定であるから、購入者による抗弁の主張があっせん業者に対する関係において信義誠実の原則にもとるときは、購入者は、その立法趣旨に照らし、右抗弁権接続の規定による保護を受けるべき根拠を失い、その利益を受けることができないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、Yは、同僚であるKに対する情宜によることとはいえ、販売業者であるAと意を通じて、いわゆる事故者であるKのため、同女の購入した下着二セットを自分が購入したように売買契約を仮装した上、あっせん業者であるXに対し、右物品を自ら購入したものとして、売買代金一三万円の立替払を委託し、これを実行させたものであって、自らの意思でXと立替払契約を締結したYが、その当時容認していた販売業者との間の内部事情をもってXの支払請求に対抗することは、信義誠実の原則に反するものといわざるを得ない。したがって、Yは、本件売買契約が通謀虚偽表示により無効であることについて右抗弁権接続の利益を受ける立場になく、Xの本訴請求に対し、右事由をもって同法三〇条の四第一項の対抗事由とすることはできないものといわなければならない。

2 原審のいう諸事情のうち、前記三、3、(二)のア、イの点は、専ら販売業者であるA又はBに関する事情ないしは同人らとの内部関係におけるYの立場に視点をおくものであって、Xと直接かかわりのないこれらの事情によりYの背信性が阻却されるものとは解し難い。また、原審は同ウにおいて、保護者の意思確認はとらなくてもよい旨のAからの連絡内容自体から、本件売買契約に問題があることが推知されえたというが、未成年者とはいえ既に職に就いている一八歳の女子が本件程度の代金相当の下着を購入したことについて、販売業者から右のような連絡を受けたからといって、そのこと自体から、あっせん業者の側で売買契約にそれが仮装のものであるという底の特段の問題の存することが推知されえたものということはできない。本件においてXが、立替払契約の申込人が未成年者である場合の、保護者たる保証人についての通常の意思確認の方法をとらなかったとしても、Xとしては、これにより、Yの母親に対して保証人としての責任を追求することができなくなったり、立替払契約が取り消されたりする危険を自ら負担する結果となるだけで、そのために、前記のようなYの背信性が阻却されることにならないことは明らかである。

3 以上説示するところによれば、Yにおいて、本件売買契約が通謀虚偽表示により無効であることをもって、Xの本訴請求に対抗しうるとした原審の判断は、割賦販売法三〇条の四第一項の解釈適用を誤った違法があるものといわざるをえず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の点について判断するまでもなく、破棄を免れない。

五 そこで、Yのその余の抗弁について判断するに、Yは、本件売買に係る下着(K分の二セット)の引渡しを受けていないとして、同時履行の抗弁権を主張するが、本件売買契約が仮装されたものであることは叙上のとおりで、AはYに対して右下着を引き渡す義務を負担するものではない(なお、K分の二セットは既に同女に引渡済みである。)から、右主張は、その前提を欠き失当である。

以上のとおりであって、本件立替払契約に基づくXの本訴請求は正当で原判決は取消しを免れず、右請求を認容した第一審判決に対するYの控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。」

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